Book series #14

もっと論文読めよって感じですが笑 相変わらず、全然仕事に役立たない本ばっかり読んでいますw なんだろうなぁ。私にとって読書は息抜きであり、自分じゃない人の視点や物語を楽しむものだから、あんまり自己啓発本とか、ハウツー本みたいなの、興味ないんです。哲学の本は嫌いじゃないし、名言集みたいなのも好きだけど、それはやっぱり主人公だったり作者の頭の中に入るのが楽しいから♪


今調べたら最後にBook series書いたのが3月末のムーン・パレスだったので、それ以来読んだものは、キュリー夫人の伝記(娘のイヴ・キュリーが書いたもの)とか、日本史は逆から学べ(河合敦、知恵の森文庫)とか、The Overstory(Richard Powers)、ニーチェの格言集など、いつも夜寝る前にちまちま読むぐらいなので読むスピードはめちゃ遅いのですが、我ながら謎すぎるジャンルの統一感の無さ笑


で、一番最近読み終わったこれが、しばらくぶりのヒットだったのでメモしとこうと!



どどん!発音に困るタイトルですが、日本語的には「キルケ」だそうです。マデリン・ミラーの2冊目の本。英語のタイトルではセルシーとかサーシーに近い発音かな。ギリシャ神話に詳しい方がいたらピンとくるかもしれません。ホメロスの物語の一部、オデュッセウスの中で、主人公オデュッセウスが(トロイの木馬で有名なあの人です。木馬を発案した人)トロイでの戦争を終えて自分の故郷に帰るまでの冒険記の中で(これがすぐにお家に帰れないんですよ…戦争で勝ったのに、神々の怒りを買い、何年間も地中海を転々としています)出会う魔女、キルケ。


これ、ホメロスの作品の中ではキルケはかなりマイナーなキャラで、「英雄オデュッセウスが帰途の旅の途中に出会う様々なキャラ達」のうちの一人という立ち位置で、味方なのか敵なのかもいまいち分からないまま、出番が終了しちゃうぐらいのマイナーっぷりです。ギリシャ神話的にも、たまーに嫉妬深い魔女として出てくるぐらい?


ギリシャ神話の神社会もなかなか面白くて、神パワーが強い順に

トップ:オリンポス山に住むトップ神々(有名なやつ、ゼウスとかアテネとか)

中流階級:タイタンと呼ばれる、オリンポス集団が形成される前からいた、太古の神々

下流階級:ニンフ、妖精

それより下:寿命のある生き物、人間や動物

みたいな構図になっていて、キルケは、ニンフの母とタイタンのトップであるヘリオスを父に持つ、いわゆる「ハーフ」。神パワーは父ほどすごくはないけれど、ある事件を境に自分が、魔術を使える事に気が付きます。


で、なんでこの本が話題になっていた(1-2年前かな?出版されたの。ペーパーバック待ちしていました)かというと、ギリシャ神話のベースになっている書物の筆者は全て男性、大体マッチョな英雄が出てきて、その英雄がバッサバッサと悪者を倒す、恋に落ちる、苦悩する、など完全に男性視点から書かれていて、女神や女性陣はだいたい、その英雄を惑わす「魔性の女」的な存在か「絶世の美女」か「献身的な(=何も言わずに子供を産み続ける)妻」的な立ち位置なんです。作者のミラーは、これを女性視点で描いたらどうなるだろう?というリテリング(=re + telling、伝えなおす)方式でこの本を書いています。なので、本屋のキャッチフレーズは大体" a feminist retelling of the tales of Odysseus"などと書かれてかなりフェミニストを大々的に売っていました。


私はこういう神話とか、フィクションでも昔っからマイナーキャラ好きな所があって笑 なのでフェミニスト云々はともかく、面白そうだなと思って(しかも作者のミラーさんはブラウンの卒業生!)狙っていたのでした。


で、結果的には久々にぐっと引き込まれて、どんどん読み進めたくなる話でした。ギリシャ神話に限らず、昔からある物語って、時を経ても愛される理由があるなぁと。そしてギリシャ神話の神々ってわがまま、怠慢、傲慢、嫉妬深い、根にもつ、無責任、噂好き…とかなり人間味あるからそれも面白い笑 


キルケ自身は、小さい頃からみにくいアヒルの子扱いをされ(神々ワールドでは美は標準スペックなので、ちょっとでも美しくない、となるとすぐに仲間外れらしいww)、母に嫌われ、兄妹にいじめられ、やっと恋に落ちた相手には色々あって裏切られ、しかもそのせいで流刑にされ…とさんざんな目にあうのですが、魔術に目覚め、極める事で少しづつ自分に自信を持つようになります。この過程は見てて楽しい。


不思議だなと思うのは、物語の重要ポイントで必ず男性が絡んでくる所です。父親、弟、恋人、息子… やっと最後に一人だけ、心許せる女性が出来るのですが。女性陣は女神もニンフも妹も母親も、みんな敵対する存在なのに対して、男性は時に彼女の味方となり、癒しとなる(もちろん敵にもなるんだけど)。まぁ無人島にひとりでいる設定だから、外界との絡みは通りかかった船オンリーで、まぁそうなると男性ばっかりなのは仕方ないとはいえ。これは女性の人生には必ず男性が絡んでこないと話が進まないって事なのか?なんかそれはちょっと古いフェミニズムな気もする。まぁでも神話だし、古くていいのか笑


でも数人の女中的存在のニンフに囲まれているのに、なぜキルケに女友達がいないのか?母親や妹にはめっちゃ嫌われている設定なので、女性とはそもそも敵対する存在っていう設定なのか?容姿の良さが女性の価値基準である古代ギリシャワールドにおける「醜いけれど魔術が使える女性」というのは、よく分からなくて恐れ多い存在なのか。それともキルケ自身、子供の頃から自分の女性らしさ(=容姿の美しさ)を否定され続けたせいで、自分自身の女性らしさを否定しているのか?んーその割には遠慮なく女の武器使ってるなぁ、とか笑 でも一筋縄ではいかないキルケの思考回路に「いやその行動・メンタルは重いわw」ってツッコんだり、「あぁでもダメ男ばっかり好きになっちゃう人ってこういう心理なのかなぁ」とか、「おー ここは元カレといえどスッパリ切っていくのね」「息子の為とはいえ、ここまで出来るのはすごいわ」とか考えながら読み進めるのは楽しい。


でも最後には、彼女はそれまでの様々な恨みを整理して、一人ひとりと対峙し、そして自分と対峙し、神として永遠を生きるか、寿命ある人間としての幸せを求めるのか、ハーフならではの問答にも対峙する事になります。終わり方はすっきり!


なんだろう、最近、自分じゃない他の女性の人生のストーリーにとっても興味があるんです。別に今の時代を生きている人じゃなくても、フィクションでも、リアルでも。情に流されたり、他人の目、社会の目を気にしたり、裏切ったり、裏切られたり、時々自分の古傷をえぐったり、自分で自分の事をいじめたりしながらも、生きる事を諦めない(そういえばキュリー夫人の伝記もそういう意味で面白かった)そんな女性たちのストーリーに興味津々です。


文章的にもシンプルだけど、一気読みしたくなる文章で、洋書を普段読まない人にもおすすめ出来る一冊です♪ 英雄オデュッセウスが自分の国に帰ったあと、何があったのかも分かるし、ギリシャ神話好きな人にもおすすめです!

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