Book series #9: 鹿鳴館

今回の読書感想文は三島由紀夫の戯曲集「鹿鳴館」です。

これも、年始の一時帰国でゲットした(ブックオフ様様)数冊のうちの一つ。

そういえば同じ時に買ったカラマーゾフの妹とかは読んだし、面白かったけど感想文書いてないや笑


三島由紀夫は有名どころの「金閣寺」と「仮面の告白」他、エッセイ集の「不道徳教育講座」を読んでいて結構好きなのですが、まぁディープな内容な事が多いし、意外と腰が重くなりがちな作家かな。


「鹿鳴館」はタイトル作品含め、「只ほど高いものはない」「夜の向日葵」「朝の躑躅(ツツジ)」の4作の戯曲が収録されています。いずれも華族制度真っ盛りの時代背景を舞台に、人間の心理戦を悲喜こもごもな感じで描いている作品です。愛情、外面、プライド、嫉妬、所有欲... 人間関係の表面をほじくればいくらでも出てくるドロドロな部分を、上品なふりをする事にかけてはプロの貴族達という登場人物を通して描いていて、一般庶民の読者は覗き見しているような気分にさせてくれる本です。この上品さ加減と、動物的なドロドロ具合のコントラストが本当に上手い!でも結局、貴族だって平民だって、嫉妬するし恋するしやっぱり人間だなぁ。


こういうドロドロの話って、エンターテイメントだから適度に距離があって面白いけど、規模や種類は違えど、人間たるもの暗くて醜い部分って誰でも持ち合わせていますよね。それを自分で見つめるって目を背けたくなるし、認めたくないし、出来れば全力で気付かないふりしてやり過ごしたい。そして現代社会ではそれが可能です。仕事は忙しいし、常にメディアが思考の邪魔をしてくるし、色んなアプリやプラットフォームを駆使してあなたの「時間」と「アテンション(脳内スペース)」を引き換えにコンテンツを提供してくる。


でもドロドロの部分は消えないし、どんなに論理的な人間でも不思議な事に自分の事になると「私はこんな人間なはずはない」「僕は○○な人間だ」っていうフレームを外して己をみつめるのは至難の業。でもそういう黒い部分と真正面から対峙して、上手な付き合い方を学ばない限り、どこかで自分にしっぺ返しがくる。時には自分の大事な人を傷つけて、失ってしまうこともある。まぁ結局、その黒い部分と向き合ったからといってスッキリきれいになるわけじゃなくて、むしろ私はそういう黒い所もあるんだね、ちゃんと自覚して、うまく共存していこうねっていうスタンスの方が健康的な気がします。もちろん、言うのは簡単ですけどねw


こうやって作家や芸術家が自分の黒い部分と対峙したプロセスや結果を作品として残してくれる事によって、それに触れた私達は「あーもっと黒いものと戦ってるわこの人」とか「こんなに才能ある人でも大変だったんだな」って思える事でちょっと救われます。タイムリーな感じで、自分のキモい部分とかドロドロな部分と向き合おうとしていたので(一段落ついたけど、きっとまだまだなにかあるんだと思います)きっといつもよりも響いた作品でした。


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