Book series #6: サラバ!

地味に続けている個人的な読書記録(まぁこのブログ自体、自己満以外のなにものでもない笑)

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今回は、先日の一時帰国で輸入して来た西加奈子さんの「サラバ!」

ハードカバーでは上下巻、文庫本では上中下巻になっています。

きっかけは、FM東京のDream Heartというラジオ番組(私はPodcastで聞いてます)のインタビューで、作者の西加奈子さんが、サラバ!で直木賞を受賞した直後?の収録だったと思います。私もこの不思議なタイトルとビジュアルの本が発売された記憶は残っているのですが、その時は存命の作家に興味がなくて(笑)さらに直木賞や芥川賞の価値とかも分からず(今でもわかりません笑)ずいぶんインパクト命な本だなーとしか考えていませんでした笑

この時のインタビューで、作者がイラン・テヘラン生まれ、しかも子供の頃カイロにもいたという帰国子女だっていうのを聞いて「へぇー凄い国に駐在してたなー」と思い、そういえば私がセンス面ではそれなりに信頼している友達も西加奈子大好きだと言っていたのを思い出して、日本滞在最終日に父におつかいを頼んでブックオフしたのですww 残念ながら上巻しかなかったのですが「ま、ビミョーだったらそれはそれだし」と思っていたのですが帰りの飛行機で一気読みしちゃっ・て。「これは中・下巻すぐ買わないと」と慌ててアマゾンしました。(ちゃんとお店で買わなかった事が心苦しいです.....皆さん、本は本屋さんで買いましょう。。ブックオフも書店ではないけど、まぁ誰かが捨てた本の救済という事にしてありますww)

(西さんは、今まで出版した本は全て表紙絵も自分で手がけているんです!)



で、ここからが感想。内容要約はしないけど、ネタバレすると思うから注意!


さーてどこから書こうかな。まぁ上中下巻とあるから厚さにビビるかも知れないけど、一日に一冊読めるぐらいグイグイ引き込む小説です。物語は最終的に37歳になる主人公の歩(アユム)の自叙伝的な形で語られるのですが、彼の内面、彼の周りに起きる事(もちろん、彼自身の知り得る範囲内で)のバランスが良く取れていて、サクサク読み進められます。そして何より、文章が誠実!とっても正直で、ついでにいうと歩の感情や反応も「きっとその時本当にそれを考えていたんだな」ってあっさり納得出来る感じ。こういう一人称の自叙伝系は主人公がやたらと自己分析が深くて「そんなその瞬間色々考えてないわ絶対!」って時が多々ある(主人公の性格的にそこまで自己分析出来るはずないのに、やたら出来てしまっていると違和感を感じるのは私だけ?)。だけどサラバ!の歩はその辺のバランスが良くて全く違和感がない。だから物語に集中出来るのかも知れない。


そして歩はライターから小説作家に最終的にはなるんですが、ライター時代初期の頃の「言葉が好き、文章が好き、書く事が好き!!!!!」って感覚は作者のそれともろかぶってるんじゃないかなと思います。個人的にはそれが小説全体から感じられて、だから特に難しい言葉とか言い回しがある訳ではないし、小説を読んでると時々ある「こんな言葉絶対一般人の語彙じゃないわ。。。」って事が全くないのにも関わらず、場面、場面ですっごくピッタリくる表現をピンポイントで選んでる感じ。その表現に出会えるまで作者があーでもないこーでもないってきっとしたんだろうなーっていうのが伝わる感じ。文章の誠実な印象はそこから来るのかもしれません。


そして、この小説、下手したら盛りだくさん過ぎてお腹イッパイになりかねない程、幅広いトピックに触れています。文化、宗教、家庭の崩壊と再生、自己実現、ジェンダー、自然災害、芸術、幼少期のトラウマ...パッと思いつくだけでもこれだけヘビーなトピックが目白押しなんです。なのに「無理してる感」が全くないのは、しつこいようですが、作者の言葉・文章への誠実さや情熱がビンビン伝わってくるからなんだと思います。作者には「この社会問題を提議しよう」なんて意図はなくて、ただただ歩の体験を歩の体験として、彼が感じ、考え、反応したままをそのまま言葉にする事にだけ全神経を集中させている。だから、ゴリ押し感が全くないまま、読者は歩と一緒に感じ、考え、反応せざるを得ない。その感覚が久しぶりで「あ、私もまだこのタイプの文章に反応出来るぐらいの感性を持ってる!」とちょっと安心しました笑


というのも、小学校高学年〜中学生ぐらいの時に夢中になったあさのあつこさん、森絵都さん、佐藤多佳子さんの作品に似た感覚だと思うんです。彼女達の作品はこんな壮大なスケールではなかったんですが、本当に大好きでバッテリー、ダイブ!、一瞬の風になれ、はシンガポール時代、なかなか日本の本を読めなかった時も呆れる程、読み返しました。そういえば全員女性の作家が男子の主人公を書いた作品だし、そういえば全部スポーツが絡んでる...笑 バレエというアスリート性を求められる事をしていたから、スポーツに共感したのかな。笑 その時はなんで好きなのかあんまり考えてなかったけど「Fake = ニセモノ」な事にとても敏感に反応していた思春期の私は、ひたすら誠実に誠実に物語を綴る作家さん達の作品に共鳴したんだと思います。今でもFakeには人一倍敏感だと思いますが笑


まぁただスッキリしないのは、歩に多大な影響を与える相当エキセントリックなお姉ちゃんの貴子の扱い方。まぁ歩の自叙伝である以上、歩が理解出来ない存在である姉は、やっぱり理解出来ないのが正解なのかもと思うんですが、貴子が(歩曰く)「私を見て!」という欲求に支配されていた、と自分で認めるような様子があんまり感じられないんですよね...。それとも、それは歩の考え違いであって彼女は最初から自分の信じるものを探そうとしていたのか...?そんなわけないじゃんね?と思っちゃうし。彼女がどうやって異様な承認欲求とケリをつけたのか、そもそも自分の承認欲求がケタ違いに凄かったって認めるような場所があっても良かったかなと思います。そしてアイザック必要?笑 アイザックをイサクと呼ぶのって、本人が嫌がってる(作中には「嫌がってる」というよりは「不思議がってる」って感じで書いてあったかも)のに変じゃない?うん。


後、1番最後にヤコブと再会して、お互いが失ったものや手放したものを再確認する事が、歩が小説を書く最後のきっかけになるんだけど、その辺もちょっとなんというか。もう大人になって繋がれなくなっちゃったのかーと切なくもスッキリしない部分なんですが、人生ってスッキリしないもんですよね。スッキリしなくったって、歩み続けなきゃいけない。彼の名前のように。


来年ぐらいにまた読み返したいし、自分の原点とか自分が信じるモノが信じきれなくなった時には、この本を読み返したいと思います。長くなりましたがこの辺で。

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